水口施設長コラム No.29 慢性ウィルス感染症

2019年中国武漢から始まった新型コロナウィルス感染症は、2021年5月現在、世界中で猛威を振るっている。しかしながら、国内でもワクチン接種が開始され、感染は終息に向かうだろうと期待されている。
 ウィルスに感染するとマクロファージやNK細胞を中心とする自然免疫系が活性化される。次に、ウィルスを排除するのに相応しいT細胞やB細胞を中心とする適応免疫系が活性化されウィルスは排除されるが(急性感染症)、一部は特定の場所に潜みながら持続感染する(慢性感染)。急性感染と慢性感染の際に認められる免疫反応は異なっているようだ。
 慢性ウィルス感染は私達に有用な役割を果たすこともあるが、癌化を初めとして種々な疾患感受性を決めているという知見が集積しつつある。今回は慢性ウィルス感染症について紹介したい。
 2021年現在、慢性感染を誘導するウィルスとしてEpstein-Barr ウィルス、ヒト免疫不全ウィルス、B型肝炎ウィルス、 C型肝炎ウィルス、およびパピローマウィルス等を含む8-12種類が知られており、これらのウィルスに対する感染者は全世界で60億7000千万程度であると推定されている。
 過剰な炎症反応が持続するとホストのダメージが大きいので、持続感染では免疫系は過度にウィルスに反応することなく処理可能な範囲内に収めている。一方、ウィルスは様々な戦略を使って生き残りを図っている。例えば、持続的に子孫を生み出すこと、潜伏と再感染を繰り返すこと、さらに免疫系の攻撃を回避し次々に感染していくという戦略等をとっている。
 ウィルスの中には子孫をつくることはできないが、タンパク質を産生しているものもある(内在性レトロウィルス)。内在性レトロウィルスはヒトゲノムの10 %程度を占めており、スーパー抗原を発現すること等によって免疫系や胎盤形成に関わっていることが知られている。
 持続感染ではT細胞機能は疲弊し、免疫系の調節に関わっている抑制性受容体(PD-1等)が高発現している。また、制御性T細胞やサイトカイン(IL-10・TGF-β等)も過度の反応を抑制するのに役立っている。これらのバランスが崩れると免疫系がウィルスをコントロールできなくなり、疾患の発症につながる。
 多かれ少なかれ、私達はある特定のウィルスに対して感受性であり、ウィルスは特定の遺伝子を持っているヒトに疾患を誘発する。従来、感染症とは考えられなかった高血圧症においても、マウスではレニンアンギオテンシン系を介して高血圧症を誘導することが示されている。要するに、自己免疫疾患やアレルギー疾患ばかりでなく、ガン、心臓病、認知症などの炎症関連疾患は慢性ウィルス感染によってもたらされる可能性がある。
 慢性ウィルス感染症はある特定の遺伝子変異を持っているヒトに発症しやすいことが明らかにされているが、ウィルスと共生している可能性もある。それ故、ヒト遺伝子多型と共にウィルスの全貌の解析が待たれる。慢性持続感染は友達(friendあるのか敵(foe)であるのかを明らかにすることにより、疾患制御における免疫療法やワクチンの時代がやってくるだろうと期待されている。