水口施設長コラム No.25 百寿者(センチナリアン)

 古来、健康長寿は人々の願いであり、様々な薬や健康法が伝わっている。百歳以上の人は全国で1960年台は百数十人であったが、2020年9月の調査では8万人となり急速に増加している。男女別では圧倒的に女性の方が多く8割以上を占めている。我々の施設でも100歳以上の方が数名いらっしゃるが全員女性である。100歳以上で自立している方は全体の2割程度で有り、大多数の方は何らかの介助を必要とされている。
 2割の自立している方は110歳以上のスーパーセンチナリアンになる確率が高く、ADLと生存率が相関していることが明らかとなっている。ADLが保たれていることと共に、糖尿病、高血圧などの心臓血管系の危険因子が少ないこと、フレイル等が予後を決めているようだ。フレイルは加齢に伴う臓器予備能の低下により全身のストレス耐性が低下した状態である。
 成熟期以後、加齢と共に各臓器の機能が低下し,個体の恒常性を維持することが不可能となり、ついに死に至る過程を「老化」いう。高齢者の身体的な健康を阻害する「動脈硬化」は死因の主要な原因であり、65歳以上の寝たきり者の約4割が脳血管疾患や心臓病に罹患している。その他、認知症、転倒・骨折などがある。加齢に伴い免疫機能の低下によって感染症や悪性腫瘍に罹患するリスクも高くなる。
 現在、死因の第1位はがんであり、がんの発生を抑制することは長寿につながるだろうか?マウスを使った実験よると、p53を欠損しているマウス(p53-/-)では若いうちに全例で癌が発生することから、p53は癌を抑制する機能をもっていることが分かる。野生型は雄と雌由来のゲノムを持っているのでp53+/+と記載される。片方が欠損しているマウス(p53-/+)ではp53機能が野生型に比べて上昇しており、予想通り癌の発生は予想どおり抑制されたが、驚いたことに多彩な老化症状が現れ短命となった。p53が過剰に活性化すると、幹細胞の増殖が押さえられること、細胞死が誘導されることなどによって老化が加速すると推測されている。
 癌、糖尿病、アルツハイマー型認知症など老化に伴う疾患の背景として「慢性炎症」が注目されている。CRPや炎症性サイトカイン(TNF-α, IL-6)がADLや認知機能と相関し、これらの炎症をコントロールすることが健康長寿を実現するキーとなる。
 老化の基本的な仕組みについては未だ全貌は明らかにされていないが、次のような仮説がある:(1)寿命は遺伝子によって制御されており、遺伝子にプログラムされている(プログラム説)。動物種によって最大寿命が異なっているという事実はこの仮説と合致している。(2)テロメアの長さによって細胞の分裂回数が決められている。胎児に比べて老人のテロメア長は短いなど、加齢に伴ってテロメア長が短くなってくる。(3)カロリー制限が寿命を延長する。Sir2 (silent information regulator 2)は NAD+依存性脱アセチル化酵素であり、その酵素活性は酵母、ショウジョウバエなどの老化、寿命の制御、カロリー制限による寿命延長効果に必須の役割を果たしている。(4)複数の反応基を持つ物質が架橋することによって異なる複数の高分子と結合し新しい高分子をつくる(クロスリンキング説)。糖尿病が怖いのは、高血糖になると糖がタンパク質のアミノ基に反応する、いわゆる「糖化(glycation)」によってAGE(advanced glycation end products, AGEs)と呼ばれる化合物ができる(メーラード反応)ことである。AGEsは終末糖化産物の総称であり、受容体であるRAGE (receptor for AGEs)に結合すると、炎症性サイトカイン、酸化ストレス、反応性酸素種ROS (reactive oxygen species)が産生され、組織傷害が誘導される。動脈硬化、末梢神経症、腎障害、網膜症などの病因とも関係している。糖尿病は単なる血管病ではなく全身の老化を加速させるのである。
 老年期における病気の予防として運動と食事の重要性が示されている。運動の強度は最大酸素摂取量の50%以上で、1回30〜60分を週3回以上が目標である。速歩やジョギングがお勧めである。運動強度を簡便に測る方法として、心拍数=138—年齢/2 (拍/分)が用いられている。
 老化を防止する食事として、ケーキやお菓子などの糖分を控えめにし、カボチャ、人参、キノコ、ひじきなど繊維成分の多い食事、EPA/DHAを含む魚を積極的にとることが推奨されている。さらに、水分を適宜とり脱水を防ぐこと、塩分は控えめにする(1日10gが目標、高血圧の人は6g以下)、マグネシウム、カルシウムなどのミネラルも忘れないように摂取したいものである。このような食事は日本食に近いものであり、日本が長寿である一因であろう。
 アンチエイジングの目的は病的な老化を防止して健康で長生きすることにある。健康な人の特徴は,「幸福感が高い」、「病歴はあるが、動脈硬化は軽度、糖尿病は少ない」、「開放的で几帳面な人が多い」、「話が面白く魅力的な人が多い」こと等であると言われている。医学や医療の進歩と共に、平和が長く続いていることも百寿者の増加に関与しているのではないだろうか。

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