水口施設長コラム vol.4

「インフルエンザ感染症—その1−」

秋が深まり、今年もインフルエンザ感染症の流行シーズンとなった。例年通り、施設では発熱、咳などの症状のある方には面会をご遠慮して頂いている(2019年11月1日〜2020年3月31日)。ご不便をお掛けしますが、ご協力のほどお願い申し上げます。

インフルエンザ感染症は、ウィルスが感染して1〜2日間の潜伏期の後、突然悪寒、高熱をもって発症し、頭痛、倦怠感や関節痛などの全身症状を伴うことが多い。健康成人が罹患した場合は、数日で快復するが、慢性呼吸器疾患、糖尿病、慢性心不全などの基礎疾患、免疫機能が低下している高齢者、および乳幼児では肺炎の合併に注意を要する。乳幼児では、発症が急激で、予後が悪い(死亡率30%)インフルエンザ脳症の合併が認められることがある。

ウィルスに感染すると、ヒト(宿主)は免疫反応を誘導し、体内からウィルスを排除しようとする。感染後、速やかに感染細胞を破壊する「ナチュラルキラー(NK)細胞」やウィルスの増殖を抑制するインターフェロンなどが産生される(自然免疫反応)。次に、細胞から突起を伸ばしている「樹状細胞(DC)」がウィルスをキャッチし、細胞内で処理する過程で「ヒト白血球抗原(HLA)」と複合体を形成する。生体にとって危険なものであると認識し、樹状細胞は司令塔である「CD4陽性ヘルパーT細胞」へインフルエンザに関する情報を伝達し、活性化させる。

活性化ヘルパーT細胞はインフルエンザ感染細胞を選択的に破壊する「CD8陽性キラーT細胞」を誘導すると共に、B細胞に作用し、抗体産生を誘導する(適応免疫反応)。 ウィルス毒素を中和する抗体は新規感染を防ぐ。この異物を排除するエフェクター機能は制御性T細胞によってコントロールされている。つまり、それぞれの役割を担っている細胞が巧妙に協調して、段階的に相互作用することによって自然免疫反応と適応免疫反応が進行し、ウィルス感染は終息する。

一部のリンパ球は、再感染が起こった場合に速やかに免疫反応を誘導することができる「記憶細胞」へと分化する。インフルエンザワクチンは人為的に記憶細胞を誘導することによって、症状の軽減あるいは防御を目的としている。記憶細胞は同系統のウィルス感染を防御することができるが、型(亜型)が異なるものに対しては作用することはできないので(免疫反応の特異性)、毎年流行すると予想されるウィルスに対するワクチン接種を受ける必要がある。「スペイン風邪」に罹患した患者さんの解析から、免疫記憶は100年ほど持続することができると推定されている。

第1次世界大戦中にインフルエンザが流行し、スペイン王室の罹患が大々的に報じられたことから、「スペイン風邪」と呼ばれるようになった。発熱時に、解熱剤、アスピリン(解熱剤)の大量投与が行われ、重症化の要因の一つになったと推定されている。インフルエンザ感染症は古来よりあったようである。平安時代には既にインフルエンザ感染症を疑わせる記載があり、江戸時代には「はやり風邪」と呼ばれていた。

発熱、頭痛、筋肉痛などインフルエンザが疑われる場合は、速やかに病院を受診し、診断を受けることが望ましい。迅速診断キットで陽性と判定された場合は、速やかに(48時間以内)に「抗ウィルス薬」を服用することが望ましい。タミフルなどの抗ウィルス薬は生体内におけるウィルス増殖抑制作用を有しており、解熱までの時間を短縮できるが、ウィルスを排除する作用はない。解熱剤は特に用いる必要はないが、希望がある場合はアセトアミノフェンの使用が推奨されている。従って、安静、保温に努め、無用な外出を控えることが肝要である。

熱が上昇すると、免疫反応が亢進し、異物を有効に排除出来ると言われている。しかし、発熱は多数のエネルギーを要すること、40度以上の高熱は脳病変を引き起こす可能性があるので、適度にコントロールすることにもメリットがある。発熱のメリット、デメリットを勘案し、アセトアミノフェンなどの解熱剤によってコントロールすることが望ましい。

咳、くしゃみなどの飛沫粒子により伝播するので、感染対策として次の3つが有効である。まず、マスクなどの着用により自分が感染源とならないようにすること、発症した場合は出勤しないこと、最後に、手洗いの励行、ドアノブやトイレの接触部位の清拭などの感染経路を遮断すること、最後に栄養、休養、予防接種などによって免疫機能を保つことである。

「インフルエンザ感染症—より深く理解するために、その2−」

インフルエンザウィルスには、A型、B型、およびC型が存在している。A型は感染力が強いものが多く、時にパンデミックを起こす。インフルエンザウィルスはヒトのみならず、かも、にわとり、犬、猫などにも感染することから、「人畜共通感染症」と言える。

インフルエンザウィルスはエンベロープに包まれており、エンベロープ表面上に表赤血球凝集素素(HA)およびノイラミニダーゼ(NA)が存在している。抗原性の違いによりHAは16の亜型(H1〜H16)、NAは9の亜型(H1〜H9)に分けられる。流行しているA/ソ連型(H1N1)とは亜型のことである。HAに対する抗体(中和抗体)が発症を防御する鍵である。

A型やB型インフルエンザウィルスの感染はHAが標的細胞のシアル酸受容体に結合することによって始まる。エンドサイトーシスによって細胞内に取り込まれ、ウィルスの複製がおこる。膜タンパク質の合成がおこり、成熟ウィルスとなって出芽によって細胞外へ放出される。タミフル(オセルタミビル)はNAを阻害することによってウィルス増殖を阻害する。

インフルエンザウィルスは変異することにより、免疫系から回避する戦略をとっている。HA、NA上のアミノ酸変異によって抗原性が少しずつ変化することを連続変異(抗原ドリフト)と呼ぶ。HAを支配している領域に変異がおこると、体内に存在している以前のHAに対する抗体は結合できなくなり、結果としてウィルス増殖を阻止できなくなり、ウィルスは存続することになる(A/ソ連型(H1N1)や香港型(H3N2)など)。

鳥インフルエンザウィルスはヒトに感染しないし、ヒトインフルエンザウィルスは鳥に感染しない(種特異性)。しかし、ヒトウィルスと鳥インフルエンザウィルスが豚に感染し、豚の体内で遺伝子組み換えが起こると、これまでとは著しく異なる新種のウィルスが産生される(抗原シフト)。この「新型ウィルス」は従来のウィルスとは交差反応を示さず、人類の大多数が抗体を欠如しているため大流行の原因となると推測されている(パンデミック)。例えば、1918年〜1919年のスペインインフルエンザ(H1N1)や1977年に出現したソ連型(H1N1亜型)は不連続変異によって出現した新亜種ウィルスである。

インフルエンザウィルスは誤りの多い複製によって高頻度に変異を誘導すること、第3宿主における遺伝子組み換えなどの仕組みにより、多種類の子孫を残そうとする戦略をとっている。また、くしゃみ、咳などによって体外へ出て新たな宿主を求める。従って、感染者は無用な外出を控えること、マスクの着用が感染の拡大防止に役立つ。一方、多様なHLAからなるヒト集団は集団として感染抵抗性を獲得している。タミフルはウィルス増殖を抑制し、ヒトに利益をもたらすが、最近、薬剤抵抗性をもつウィルスが出現していることが報告されている。つまり、ヒトとウィルスの間の戦いによって感染の行方が決定されているのである。この争いはあたかも国際間の軍備競争に類似している(軍拡競争)。

インフルエンザ感染症の中で、最も重篤なインフルエンザ脳症の原因は未だ不明であるが、近年炎症性サイトカイン(IL-1, TNF-alphaなど)の過剰産生の役割が注目されている。臨床病理学的な解析から、中枢神経系にウィルスが認められないこと、髄液中に炎症性サイトカインであるIL-1, TNF-alphaなどが異常高値を示すことなどから、全身性炎症反応症候群(systemic inflammatory response syndrome)の関与が示唆されている。要するに、サイトカイン産生は細胞間の相互作用、活性化因子、抑制性因子などの巧妙なバランスによってコントロールされているが、何らかの機序によりこの制御が破綻すると高サイトカイン血症、脳浮腫が発生すると推測されている。

インフルエンザの防御には、司令塔の基に多数の細胞が協同的に作用している。この巧妙なバランスが破綻すると、免疫病の原因となる。細胞レベルでも、臓器レベル、個人レベルと同様に協同・相互作業が営まれていることは興味深いことである。 ホモサピエンス(現在の人類)が虚構を信じることで、数千〜数万の集団的なチームワークを築くことによってネアンデルタール人を凌駕し、今日の繁栄をもたらした(ホモサピエンス全史、ユヴァル・ノア・ハラリ)ことを考慮すると、協同・協調作用は階層性をもったものであると言える。

けいれん、意識障害を起こす前に大脳辺縁系の刺激症状と思われる幻聴、幻視を多くの子供が訴えている。

薬剤は両刃の刃であり、病態に合わせて適切に用いることが必要である。医師と相談し、適切に用いることが求められる。しかしながら、医学は未だ完全なものではなく、一部では見解が異なる場合もある。そのような場合には、セカンドオピニオンを求め、総合的に判断することが望ましい。

予後不良群では、高サイトカイン血症と共に血球貪食細胞が各臓器に認められることから、サイトカイン産生の制御が不能となり、脳浮腫を誘導するものと推測される。

この病態の特徴として、発病から神経症状の発現までの時間が短いことが指摘されている。

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