水口施設長コラム No.10 認知症リハビリテーション


認知症リハビリテーション

 加齢と共に認知症の発症率が高くなる。介護老人保健施設(老健施設)にも認知症で入所される方が多く、認知症対策は重要な課題の一つである。認知症の症状は、認知障害と行動・心理症状に分けられ、どちらも生活の質(Quality of life, QOL)の低下につながる。特に、もの盗られ妄想、不穏、大声・易怒性などのBPSD(behavioral and psychological  symptoms of dementia)は介護者にとって大きな負担となる。

 認知症の病態、治療法に向けて世界的に精力的に研究されている。アルツハイマー病(Alzheimer’s disease)の病因として、アミロイドβの沈着が引き金となりとタウタンパク質が凝集する神経原繊維変化、神経細胞死に至るという「アミロイドカスケード仮説」が支持されている。認知症が発症する20年前頃から、これらの変化が認められている。現在、これらの異常を是正する薬剤開発に向けて精力的に研究されているが、未だ薬物の効果は限定的であり、薬物と非薬物の併用療法がなされていることが多い。
 老健施設における認知症治療の目的は、認知機能の改善(認知テストの得点向上)ではなく、認知症という困難を抱えながらも本人と家族が穏やかに在宅(施設)生活を続ける事の支援にある。在宅生活を困難にする要因であるBPSDを予防する、すなわち出現させない、出現しても重度化させないことが極めて重要で有り、そのための非薬物療法について述べる。
 認知症短期集中リハビリテーション(認短リハ)は介護老人保健施設で実施されており、ADの認知機能(中核症状)の向上やBPSDの改善を促し、在宅復帰や介護負担の軽減に繋げることが期待されている。認短リハは在宅生活が困難な認知症患者に対する対策として、介護老人保健施設、通所リハビリテーションで実施されている介護サービスである。対象は軽度〜重度認知症(HDS-Rが5〜25点)である。
 認知機能尺度のような定量的な効果指標でエビデンスを出しやすい薬物療法と異なり、認短リハはセラピストと患者(家族)との関わりを通じて介入することや、全人的な効果目標をかかげていることなどから、エビデンスを示しにくいと言われている。
 山口らは、有効な関わり方として「脳活性化リハビリテーションの5原則」を提唱している。1)快刺激:笑顔がでることによって、脳内にドパミンが放出され、学習意欲・やる気の向上が期待できる。2)褒めること:ほめられることにより、ドパミンが放出される。3)コミュニケーション:他人と楽しい時間および場を共有することで安心感が生まれる。4)役割:主体的な役割を担うことはその人が生きるよりどころとなるものである。5)満点主義:誤りを避けて、正しい方法を繰り返し、成功体験とポジティブな感情で終わらせる。すなわち、残存能力を活用して楽しく生き生きと生活していくことで、ADの進行に打ち勝つことはできないまでも、進行を遅らせることは不可能ではないだろう。
 適切なケアとして、Tom Kitwoodの提唱するPerson-Centered Careという考え方がある。その人の個性を尊重し、できることを伸ばすだけではなく、Personhood(一人の人として、周囲に受け入れられ、尊重されること)をより高めるケアである。
 本人に対するケアと共に家族支援と環境調整も重要である。大半の家族は本人の現状を理解することやそれを受容することが困難で、BPSDが悪化し途方にくれた状態で受診に至る。そこで、家族に対する支持的療法や役割を与えて褒めるなど脳活性化リハの原則を生かしたケアの方法をアドバイスすることが有効である。脳は相手の心や気持ちを映し出すので、介護者が穏やかな気持ちになると、認知症の人の心も落ち着くと言われている。
 認知症の改善を目指した非薬物療法には、運動療法、音楽療法、アロマセラピーなど多くのプログラムがある。認知症患者には、エビデンスの質に限界はあるものの、さまざまな運動をややきつい程度の強度で45〜60分/回を週3回、少なくとも12週間に渡って運動療法をおこなうことが推奨されている。ただし、運動強度の高い運動を行っても明らかな効果を認めるとは限らず、一致した見解は得られていない。今後、確実に効果が得られる運動介入プロトコール(適応基準、評価指標、運動強度や頻度など)の構築が求められている。
 リハビリテーションは一律に実施するものではなく、本人の興味を刺激するようなプログラムを行うことが効果的であると言われている。個人ばかりではなく、集団で行う場合もある。集団リハビリテーションはQOLの向上につながるものと期待されている。
 本施設においても、百数十名に対して認短リハを実施した結果、認知機能の向上とBPSDの軽減の効果が認められている(未発表データ)。意欲をもってリハビリに取り組むと身体面のみならず精神面にも良い効果をもたらしそうだ。また、AD患者が安心して自宅での生活をより長く続けるためには、介護保険をはじめとした社会資源(デイサービス、ヘルパーサービス、ショートステイなど)の活用が望ましい。 
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