水口施設長コラム No.8 花粉症

花粉症

 春一番と共に、くしゃみ、鼻水、鼻づまりに悩まされる人が増えてくる。スギ花粉に対するアレルギーである。特に、暖かく、風の舞う日には大量のスギ花粉が飛散し、症状がひどい。マスクやゴーグルによって、花粉の体内への侵入を防ぐこと、帰宅したら服をはたくこと、入浴によって花粉を除去することによって症状が和らぐ。スギ花粉は春先(2〜4月)に飛散するが、その後ヒノキ(4〜5月)、カモガヤ(6〜10月)、ブタクサ(8〜10月)の花粉などが飛散し、季節性アレルギーの原因となることもある。

 近年、スギ花粉症に罹患している人の割合が増加している。2008年のスギ花粉症の患者は約26%であり、1998年(16%)に比べて10%程度増加している。その原因として、飛散している花粉の増加と共にライフスタイルや環境の変化が上げられている。アレルギーが関わっている疾患として、花粉症、食物アレルギー、気管支喘息、アトピー性皮膚炎などがあるが、今回主に花粉症について触れたい。 
 兄弟姉妹や一卵性双生児の観察から、花粉症の発症には遺伝要因と環境要因が関わっていることが知られている。遺伝要因として、T細胞ヘルパー2(Th2)型サイトカン、インターロイキン(IL)4, IL5, IL13などを支配している遺伝子およびその受容体遺伝子などが関わっていることが報告されている。遺伝子の関与と共に、環境要因も大きい。清潔な環境で育った子供や抗生物質を頻繁に使用している人はアレルギーに罹患しやすいと言われている。
 花粉に暴露すると、樹状細胞に捕捉される。T細胞にアレルゲンが提示されると、B細胞が成熟・分化し、IgE抗体が産生される。IgE抗体が好塩基球に結合すると感作状態となる。再び、アレルゲンに暴露するとヒスタミン、ロイコトリエンなどのケミカルメディエーターが産生され、くしゃみ、鼻水、鼻づまりなどの局所症状、さらには眼のかゆみ、全身倦怠感など全身症状が誘発される(I型アレルギー)。
 花粉症の診断は臨床症状から容易であることが多いが、中には風邪と区別しがたい症例もある。確定診断は、花粉が飛散している時期に、くしゃみ、鼻水、鼻閉、目の痒み等の複数の症状があることに加えて、皮膚テスト、特異的なIgE抗体検査を実施する。
 アレルギー性鼻炎、食物アレルギー、アトピー性皮膚炎、気管支喘息などのアレルギー疾患はアトピー素因(アレルゲンに対してIgE抗体を産生しやすい体質)をもっているヒトに発症しやすい。興味深いことに、1〜2歳でアトピー性皮膚炎に罹患した患者を追跡すると、気管支喘息、アレルギー性鼻炎に罹患するリスクが高いことを馬場らは報告し、「アレルギーマーチ」と命名した。アトピー性皮膚炎に基づく皮膚バリア機能の障害がアレルゲン感作を促進していると推測されている。
 戦前は細菌や寄生虫が蔓延していたが、近年公衆衛生の発達や生活スタイルの変化によって寄生虫は激減し、細菌に暴露する機会も減少している。細菌に暴露されている人はTh1型(タイプI型)の免疫反応が誘導され、アレルギー誘発に関わっているTh2型反応を抑制するが、清潔な環境で育った子供はタイプ1反応が惹起されにくいため、アレルギーになりやすい(衛生仮説)。しかしながら、全てのアレルギーに当てはまるわけではなく、他の要因も関与しているようだ。
 分娩の変化および抗生物質を使用する機会が増え、腸内細菌槽が変化しており、そのことが花粉症を初めとするアレルギーの増加に繋がっているという報告もある(旧友仮説)。古来慣れ親しんできた細菌(旧友)に暴露する機会が減少すると、制御性T細胞の成熟・分化が阻害され、免疫反応の亢進し、花粉症の発症につながる。
 治療法として、花粉をさけること、抗ヒスタミン剤、ロイコトリエン拮抗薬などの「対症療法」がある。これらの薬は症状を軽減させるものであり、中止すると再び症状が出現する。より根本的な治療法として感作状態を解消する「脱感作療法」がある。アレルゲンを皮下あるいは舌下に投与する「免疫療法」が実施され、一定の効果を認めている。しかしながら、まれにアナフィラキシーショックを誘発する場合もあり、専門医の指導の下に実施されるべきである。
 予防はアレルゲンを避けることである。マスクやゴーグルの使用。帰宅した際はアレルゲンを払い落とすことが勧められる。また、スギ花粉が少ない樹木の開発が進められており、スギ花粉症に悩まされることもなくなることが期待されている。
 医学・公衆衛生の発達によって感染症を激減させることに成功したが、ライフスタイルの変化と相まってアレルギーが増加している。環境の変化にうまく適応できていないのではないか?とも考えることができる。インフルエンザなどの流行性の感染症の際には、注意深く手洗いを実施し、清潔な状態を保つことが必要であるが、通常は過度に神経質になることなく生活することによって、アレルギー反応を回避しつつ、感染防御を図ることが可能になると期待できる。そのような生活の知恵を持ちたいものである。
アクセス


〒244-0003
神奈川県横浜市戸塚区戸塚町
1800-3

お問い合わせ 詳しくはこちら