水口施設長コラム No.7 21世紀のための21の考察

21世紀のための21の考察

 「サピエンス全史」「ホモデウス」に続く第3作目である。「サピエンス全史」では地球上でホモサピエンスが支配的になった過程について、「ホモデウス」では生命の遠い将来を展望し、人間が神になる可能性や知識と意識が最終的にどのような運命をたどるかについて考察している。第3作目(21 Lessons)では今起こっている難題(気候温暖化、核問題、技術破壊、自由主義、宗教、教育法、民族主義など)を取り上げ、グローバルな視点から考察を加えている。

 20世紀には3つの壮大な物語が登場したが、1940年代後半にファシズムの物語が退場し、1940年代後半から1980年後期に「共産主義の物語」が破綻し、「自由主義の物語」が残った。1990—2000年代に自由主義はグローバルな展開を見せ、ベルリンの壁崩壊の時点では民主主義は輝いて見えたが、リーマンショック(2008年)以降、自由主義の欠点が露呈し始め、欧米ではポピュリズムが横行している。
 自由主義は「経済成長」に頼ることによって、社会的・政治的な問題を解決してきたが、「情報テクノロジー(IT)によってもたらされる課題」「生態系の破壊」「核戦争」などのグローバルな難題に対して有効な解決策を持っていない。現存するシステムの中では、自由主義よりも優れたものはないが、自由主義にも欠点・弱点があり、本書ではその点について力説している。
 東西の冷戦が終了すると、人々を結び付けていた絆が希釈となり、その間隙を塗ってポピュリズムが入ってきた。民族、宗教、グループのアイデンティティに訴え、グローバル化に取り残された集団、移民に職を奪われた集団などの意見を汲み取り支持を伸ばしている。核戦争や地球温暖化・生態系の破壊のような難題はグローバルなレベルでの協調が求められるが、宗教とナショナリズムが世界を異なる陣営に分断している。グローバルな問題と局地的なアイデンティティとの衝突は多文化から構成されているEU危機に現れている。
 AI・バイオテクノロジーやビッグデータは私達の自由を抹殺すると共に、経済的な不平等をもたらしかねない。自由市場資本主義では顧客は常に正しいということを前提としているが、政治、経済、配偶者を自由意志で選択できることを基本としている自由主義は現在のような形で生き残ることは出来ないだろう。
 人工知能(AI)とバイオテクノロジーの発達は、あらゆる種類の仕事に影響を与えることは間違いない。銀行業務、車の運転、病気の診断などの狭い範囲で定型化されている仕事はAIにとって変わられるかも知れない。AIにとって代わられた場合に、新たな仕事がみつかるだろうか。医師は単純作業から解放され、新規治療法や診断法の開発に専念できるだろうが、再学習・再訓練することが求められる。一方、定型化されていない看護、介護の仕事は代替できない。高齢者の介護などは成長分野の一つとなるかもしれない。
 局地的なテロや貧困は難民という問題を生み出している。テロだけではなく、大国間の緊張やグローバルな問題が重なって第3次世界大戦が迫っていると警告をならす人もいる。今日、経済的な資産がモノから知識に移動し、戦争を起こしても経済的に割に合わなく、かつ勝利を収めるのが困難になってきている。戦争が損な企てであり続けたとしても、平和の保証にはならない。人間の愚かさを過少評価すべきではない。人間の愚かさの治療法の一つとして、謙虚さをもつことを上げている。
 宗教という虚構を作り出すことによって、ホモサピエンスは集団として機能することが可能となり、地球上で支配的となってきた。国家、会社、貨幣なども虚構の産物である。フェイクニュースを流して自らの陣営に有利に持っていこうとしている指導者や国は昔から存在していた。「社会が複雑化した現在、虚構と現実を見分けるには、高品質の情報にお金をかけること、関連した科学論文を読むことを肝要である」、と説く。
 史上空前の変化と根源的な不確実性を伴う世界では教育法にも影響が及ぶ。「従来型の知識や技能習得型の教育から批判的な思考、コミュニケーション能力、協同性、そして創造性を養う教育への転換が必要である」、と説く。私達はコンピュータばかりでなく、私達がハッキングされる時代に生きている。アルゴリズムがあなた以上にあなたのことを知るようになった暁には、あなたを支配するようになる。もし、あなたが支配権を維持したいと思ったら、アルゴリズムよりも自分自身について知らなければならない。
 最後に、自分自身について語っている。著者は自己を見つめるために、友人の勧めもありウィパッサナーヨガを実践している。自分の苦しみのもっとも深い源泉は自分自身の心のパターンにある。心の流れは体の感覚と密接につながっている。「恐れや偏見に対する対処法を身につけることによって、効果的に行動できるだろう」、と説く。私達の心は脳のニューラルネットワークによって形づくられていると信じられているが、その仕組みについては未だ十分に理解できていない。「アルゴリズムが最期の仕上げをする前に、自分とは何かを吟味することができる。今すぐにでも取りかかるしかない」、と訴えかけている。
 施設理念である「自分や家族が利用したいケアサービスの提供」に向けて、スタッフは忙しい毎日を送っている。テクノロジーの進歩は看護・介護の分野にも少なからぬ影響を与えることは間違いない。生命・医学の進歩によって人の行動の理解が深まることによって、より良い介護サービスの提供が可能になるだろう。施設では、介護ロボットを含めた新規技術に着目し、より良質で安全・安心なサービスの提供を目指していきたい。現代社会は複雑な蜘蛛の巣のようなネットワークを構成している。それらを解きほぐし、理解し、よりよいサービス、さらに社会の実現に向けて各自がじっくりと腰を下ろして考える時間をもつことは有意義だろう。お勧めしたい一冊である。
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