水口施設長コラム No.6 誤嚥性肺炎

誤嚥性肺炎

  気の置けない仲間と喫茶店で緩い話をするのは楽しいものである。家庭内での会話、会社における戦略会議、選挙演説など「言語」は情報交換手段として極めて重要な役割を果たしている。現人類が類人猿の中で生き残ったのは、この言語を流暢に操ることができるコミュニケーションノ能力によって集団生活を営むことが可能になったことに負うところが大きい。しかしながら、その代償として人類は「誤嚥(Aspiration)」というやっかいなものを背負い込んだ。

 誤嚥とは、唾液や食物など本来なら食道へいくべきものが誤って気管へ到達することであり、その結果生じる肺炎を「誤嚥性肺炎(Aspiration Pneumonia)」と呼ぶ。通常の誤嚥性肺炎は無意識のうちに口腔・咽頭分泌物を微量に嚥下する現象(不顕性誤嚥、Silent aspiration)に基づく細菌性肺炎であるが、明らかに異物を誤嚥した場合は(顕性誤嚥)、重症経過をとることが多い。
 高齢者肺炎は青壮年と同様に発熱、咳、痰などの症状を呈することが多いが、なんとなく元気がない、食欲不振、せん妄などの非定型的な症状の場合もあり(2〜3割)、注意が必要である。高齢者肺炎の大部分は誤嚥性肺炎によるものであり、80歳以上の高齢者では、悪性新生物、心疾患についで、死因の第3位である。
 不顕性誤嚥は、脳血管障害(特に、大脳基底核病変)を有している人に多くみられ、黒質線条体から分泌される「ドーパミン」が減少し、嚥下反射や咳反射の引き金となる「サブスタンスP」の減少に繋がる。繰り返し誤嚥性肺炎を繰り返す患者では、喀痰中のサブスタンスPの量が健常対象者に比べて低下していることが知られている。
 口および鼻から取り込まれた食物や空気は咽頭を通過し、喉頭で空気は気管へ、食べ物は食道へと流れる。飲み込む時に喉頭蓋が反転し、気管の入り口が塞がることによって誤嚥が防止され、食べ物・唾液は食道へと流れる。喉頭は「甲状軟骨」(所謂、喉仏。外から触れることができる)によって囲まれている。のどや気管の粘膜が刺激されると咳がでる(咳嗽反射)。咳はのどや気管から異物を排出する機能があり、咳がでると誤嚥性肺炎は起こりにくくなる。
 嚥下機能の低下のサインとして、痰が喉によくたまる、食事中にむせるようになる、液体の方が固形物より飲み込みにくいなどの症状がある。嚥下機能を詳しく評価する方法として、飲み込む時の喉の様子を調べる「嚥下内視鏡検査(VE)」がある。
 誤嚥性肺炎の予防として、薬物療法、肺炎球菌ワクチン、口腔ケアなどはある程度の有効性がある。薬物療法として用いられているサブスタンスPは嚥下反射を誘導し、誤嚥を防ぐ。Ace阻害剤、半夏厚朴湯、ドーパミン作動薬、唐辛子の成分であるカプサイシンは血中サブスタンスPを上昇させることが知られている。嚥下リハビリテーションは飲み込みの障害の程度に合わせて実施することが重要である。まず、首や舌の運動、ストローで空気をはくなど、発声練習など食べ物を使わない訓練から始める。食べ物を用いた訓練では、とろみがついた飲み込みやすい食材が用いられている。
 施設では多職種から構成される「ケアカンファレンス」や「栄養委員会」で、個々の利用者に相応しい食事摂取量や食形態の工夫、嚥下リハビリテーション、口腔ケアなどを実施している。言語聴覚士(Speech Therapist, ST)、管理栄養士(Registered Dietitian)が毎日利用者さんの昼食状態を観察し、食事摂取不良・困難が認められた場合は嚥下機能を評価し、必要であればカンファレンスで食事内容や食形態の変更を勧めている。「嚥下機能評価や嚥下リハビリテーションの結果、本人に相応しい食事を提供出来たときは仕事のやりがいを感じる」とSTの海辺さん。
 嚥下機能の維持・向上には適切な栄養摂取による体力の回復が必要である。管理栄養士は言語聴覚士、介護士と共に、食事内容・形態などを検討している。例えば、キザミ食は「あんかけ」をかけてまとまりやすくする、根菜などの硬くばらけやすいものは煮る時間を多少長くし柔らかくするなどの工夫をしている。できあがったものについては、随時試食を行い、調理時間や調理方法などを検討している。「食べる喜びや楽しさを感じて頂けるように食材の配慮や行事食を提供している。ST、介護士、看護師・医師の皆さんと共に情報共有しながら働くことができる老健は楽しく、やりがいを感じる。」と管理栄養士の平山さん。
 老化、脳血管障害、神経障害などによって嚥下機能が低下する。嚥下機能の低下は誤嚥性肺炎の最大のリスク要因であり、施設では肺炎予防に向けて薬剤、嚥下リハビリ、口腔ケア、食形態の工夫などを実施している。また、胃瘻造設によってエネルギーを確保することも可能であり、本人・家族の方の意向を尊重した医療・ケアサービスの提供に努めている。
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