水口施設長コラム No.21 自由と安全

No.21  自由と安全

束縛を受けることなく自由に行動したり意見を述べたりできる、複数の中から好みのものを選択できるという自由な社会で、私達は暮らしている。しかしながら、新型コロナウィルス感染症が蔓延し、安全・安心のために、生活・行動の自粛という制限を課せられている。
(1)介護サービス選択の自由
 「自由」という概念はギリシャにおける戦いの歴史の中で生まれた。自由で快適、かつ安全・安心なケアサービスは介護施設の基本理念である。2000年に介護保険法が施行され、自分や家族が受けたい介護サービスを自由に選択できるようになった。介護法人保健施設(老健)、特別養護老人ホーム(特養)、有料老人ホーム(有料)、サービス付き介護老人ホーム(サ高住)、デイケア、在宅介護など、様々な介護サービスがある。老健は要介護1以上、特養は要介護3以上という制約があり、料金も異なる。このような制約の中で、自分や家族にとって好ましいサービスを「自由」に選択することができる。
(2)自由とリスク
 自由には一定のリスクを伴う。例えば、施設における重大なリスクとして転倒・骨折を上げることができる。転倒のリスクの高い利用者に対して、リハビリを実施し、立位そして歩行を促す。このリハビリには一定の転倒リスクを伴うため、個々の利用者の日常生活動作(Activities of daily living, ADL)を評価した後、見守りの元で行われる。転倒のリスクを回避する余り、日常活動を過剰に制限するとADLの低下のリスクが高まる。安全を担保しつつ、如何に効率的よく生活リハビリテーションを実施することができるか、力量が試されるところである。
(3)自由、安全、コスト(経済)
 今年3月にパンデミックが宣言され、感染拡大を防ぐために「緊急事態宣言」が出された。その後、終息したかに見えたが、経済活動の再開と共に再び増加傾向を示した。ウィルス感染様式は飛沫、接触感染であることから、密閉・密集・密接(3密)が重なるような会議や大規模イベント、飲食業、学校(保育所)・会社などの活動の自粛政策がとられた。オンライン授業、テレワークなどによって人やものの流れなどが遮断され、社会は経済的な打撃に見舞われている。
 感染症の拡大防止には、ある程度の経済的な打撃を覚悟し、個々人の自由な活動を制限することが必要である。感染拡大防止、自由な行動、そして経済活動を、同時にかつ完全に満たしてくれる方法はなく(トリレンマ)、優先順位あるいはウエイトを付けない限りこの問題は解決しない。
(4)自由と制約(法)
 「自由」には制約(法)を伴う。ゲームや芸術作品にも自由とリンクしている規則・制約がある。サッカーは手を使わないで主に足でボールを操り、相手ゴールを目指すゲームである。この制約によって、芸術的なドリブル、ヘッディングシュートなどが生まれ、観客は感動する。4年に1度開催されるワールドカップに全世界の人々は熱狂し、数々のドラマが生まれた。
 芸術の分野では、ベートーベンはハイドンが確立した交響曲の形式を打破し、新たなシンフォニー形式を模索し、9曲の交響曲を作曲した。ベートーベンの創造性、芸術性は「交響曲」、「四重奏曲」にみられる形式と表裏一体の関係にある。同様のことは俳句にもみられる。「ほろほろと山吹散るか、滝の音」(芭蕉)。芭蕉は、字数や季語という制約の中で自然や人生を表現し、俳諧を芸術のレベルまで高めた。つまり、優れた芸術作品は自由と制約との相互依存の枠組みの中で生まれてくるのである。
(5)最期を迎える場所
 人生の最期をどこで、どのように迎えたいか?アンケート調査では、住み慣れた自宅で最期を過ごしたいという方が最も多い。突然訪れる転倒・骨折、脳卒中、認知症、その他の入院によるADLの低下などにより、施設入所を希望される方が多い。加えて、高齢になると複数の疾患を抱えている方も多く、介護施設は利用者さんの病態・状況に合わせて適切な対応が迫られている。介護・看護の基本型をマスターし、個々人に応じたパターンを身に付ける。いつもステレオタイプな応対では、変化に乏しく、満足感は得られない。心のこもった応対、そこに人はやすらぎ、安心感をもつのではないか。
 施設では、「自分や家族が利用したいケアサービスを提供する」という理念の具現化に向けて努力している。安全で安心なケアサービスを継続的に提供していくには、介護レベルの向上に努めると共に効率的なサービスの在り方、さらに福祉制度の在り方を国民全体で検討することも必要である。サービスと負担はトレードオフの関係にあり、利用者に相応しいサービスの在り方について腰を落ち着けて考えてみることも必要であろう。

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