水口施設長コラム No.20 糖尿病 ―文明化によってもたらされた病気―

No.20  糖尿病 ―文明化によってもたらされた病気―

十分な食事と運動不足などによる生活習慣を背景として、近年糖尿病患者が増加している。糖尿病性腎症による透析で苦しむ患者さんの増加も危惧されている。本施設においても糖尿病の方は多く、インスリン依存性の患者さんも目立ってきた。糖尿病の方は新型コロナウィルス感染症を発症すると、重症化のリスクが高いと言われており、感染防止対策を徹底している。

(1)糖尿病とは
 糖尿病とは、インスリンの作用不足によって高血糖状態が持続する代謝疾患群である。大きく分けてインスリン産生細胞が破壊されているI型とインスリン分泌低下やインスリンの抵抗性によるⅡ型がある。
 症状としては、高血糖や代謝異常によるものと、糖尿病の合併症によるものがある。前者には、口渇、多飲、体重減少、易疲労感などがあり、後者には視力低下、足の痺れ感、発汗障害、便秘や下痢(神経障害)、歩行時下肢痛、足潰瘍・壊疽(血流障害)、四肢の麻痺(脳血管障害)や胸痛(冠動脈疾患)などがある。

(2)人はなぜ肥満・糖尿病になりやすいのか
 病因には遺伝要因と環境要因がある
1)遺伝要因
 人間はなぜ肥満になりやすく、代謝病に罹りやすいのかについての説明として、「倹約遺伝子型」仮説がある(1962年、ジェームズ・ニール)。倹約遺伝子とは、脂肪をできるだけ多く貯蔵する傾向を持ち主に与える遺伝子のことである。農耕牧畜民は狩猟採集民よりも多くの食料が得られるので、倹約遺伝子を失った方が有利になっていただろう。
2)環境要因
 一方、ニック・へールズとDavid Parkerは環境要因に着目した(「倹約表現型仮説」)。低体重出生児では、成人後に肥満になりメタボリックシンドロームになる確率が高い。妊娠中の母親が十分なエネルギーを得られない場合、胎児はそれに対応するために、筋肉量を少なくして、小さく成長する。インスリンを産生する膵臓細胞も少なく、他の腎臓などの器官も小さい。このような子供はエネルギーが少ない環境でも乗り切れるように適応しているが、エネルギーの豊富な環境では不適合となる。腹部内臓脂肪を蓄積しやすいなど、倹約的な特徴が発達したためだ。
 しかしながら先進国では、ほとんどの人が生まれた時に体が小さかったわけではない。子供の頃に体重過多の場合、メタボになる確率が高いことが報告されている。つまり、遺伝と環境の相互作用によって肥満・糖尿病感受性は決められているようだ。最近の研究では、肥満と病気に関しては、食事、身体活動、ストレス、さらに睡眠などの環境因子も重要であるという知見が蓄積されている。

(3)食事
 人は余剰エネルギーの大半を脂肪として蓄え、空腹でも狩猟や採集ができるように進化した。予備の脂肪をゆっくりと燃焼していけば、数週間や数ヶ月は生存していくことができる。最近まで、ほとんどの人間はエネルギーのマイナス収支に耐えてきた。従って、消費する以上のエネルギーを摂取していると、体に余分な脂肪がたまることになる。さらに、大半の食品には大量の脂肪と糖が含まれているが、食物繊維が入っていないものが多い。
 食物繊維が入っていないと、肝臓と膵臓による処理が追いつかないほど急激にカロリーを吸収することになる(GI値が低い食品)。過剰な糖は内臓脂肪として蓄えられ、高血圧、高脂血症、高血糖、HDLコレステロール(善玉)の低下、LDLコレステロール(悪玉)過剰といった一連の症状が引き起こされる(メタボリックシンドローム)。
 
(4)インスリンによる血糖コントロール
 生体内では数十種類のホルモンが分泌されているが、血糖を下げる作用をもっているのはインスリンのみである。健常人では食事をするとインスリンが作用し、正常範囲内にコントロールされるが、糖尿病患者では高血糖が持続する。結果として、インスリン分泌の低下やインスリンの相対的な不足となり、インスリンの作用が発揮されにくくなる(インスリン抵抗性)。
 血糖が上昇すると、インスリンが分泌され、血糖の筋肉細胞および脂肪細胞へと取り込みが促進され、脂肪として蓄積される。脂肪蓄積をもたらす犯人は、炭酸飲料やケーキなどグルコースやフルクトース(フルクトースよりも甘い)の豊富な商品である。付加的な要因として、1)食物がグルコースに分解されるスピード(GI値)、2)どれだけフルクトースを食べるか、それがどれだけ早く肝臓に到達するか?などが上げられる。例えば、ジャンクフードはリンゴに比べて、高カロリー、フルクトース・グルコースが多く、食物繊維が少ない。食物繊維は炭水果物を糖に分解するペースや腸が糖を吸収するペースを遅くし、さらに食物が腸を通過するスピードを速め満腹感を催させる。
 筋肉や他の組織がエネルギーを消費すると、血中のグルコースが低下する。貯蔵エネルギーの放出を促すホルモン(膵臓から分泌されるグルカゴン)が分泌される。肝臓内のグリコーゲンと脂肪を糖に変える。さらに、副腎からコルチゾールが分泌されると、インスリンの働きが抑えられる。

(5)ストレス
 ストレスにさらされると、副腎から「コルチゾール」が分泌され、内臓脂肪からのグルコースの放出がおこる。心拍数の増加、血圧上昇がおこり、眠れなくなる。さらに、エネルギーの高い食べ物がほしくなり、ストレスからの快復を促している。しかしながら、慢性的なストレスにさらされると、血糖上昇、高カロリー食品の渇望、インスリンによる内臓脂肪の蓄積がおこり、食欲抑制ホルモンである「レプチン」の働きも悪くなる。もう一つの空腹ホルモンである「グレリン」も上昇し、食欲が亢進する。

(6)腸内細菌の役割
 腸内には何十億という細菌が存在し(腸内細菌叢)、タンパク質、脂肪、炭水化物を消化し、身体がカロリーと特定の栄養素を吸収するための酵素を提供し、さらにビタミンまで合成する。人体の腸内細菌叢を変えてしまう抗生物質の使用が食生活の変化と並んで肥満の一因であるかも知れない。産業飼育される動物が抗生物質を投与される理由の一つは体重増加をもたらすからだ。

(7)運動によって予防できるか
 運動により、一週間に何度か300キロカロリーを余計に燃焼させても、その合計数はあなたの体の全体的な代謝量に比べて比較的小さい。しかも、運動は食欲を一時的に抑えるホルモンを刺激する一方で、空腹感を催させるホルモン(コルチゾールなど)も刺激する。身体活動の重要なことの一つは筋肉のインスリン感受性を高めながら、脂肪細胞のインスリン感受性を高めないことにある。

(8)施設での対応
 飽食の時代を反映して、糖尿病患者が増加している。施設においても糖尿病の管理は重要な課題の一つであり、患者のみならず介護者にも糖尿病について周知している。快適な環境、規則正しい食事、および適度な運動により、糖尿病薬を減薬できる患者さんもいる。食事、運動、睡眠といった基本的な生活習慣が糖尿病の予防に重要であるということを再認識させられた。

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