水口施設長コラム No.17新型コロナウィルス感染症(4) ー歴史は繰り返すー

新型コロナウィルス感染症(4) ー歴史は繰り返すー

 新型コロナウィルス感染症が全世界に蔓延し、生命ばかりでなく、経済にも大打撃を与えている。巷には色々な情報があふれ、中にはフェイクニュースも入りこんでいる。市民はストレスや不安を感じ、疲弊している。今回、これまで人々が感染症にどのように対処してきたか、どのような結果がもたらされたかを検討する中で、新型コロナにどのように向き合うべきかを考えてみたい。


(1)ウィルス感染症の起源:動物から人への感染
 人類ホモサピエンスが出現した20万年前頃には、既に細菌、ウィルスは存在していたことから、ヒトのウィルス感染症は動物由来と言える(人獣共通感染症;Zoonosis)。狩猟採集民族は恐らく野生動物に寄生しているウィルスに感染していたが、感染が拡大することはなかった。
 集団生活を営む農耕社会では、家畜も飼育されるようになった。野生由来のウィルスが家畜を介してヒトに感染し、ヒトの間に広がるようになったものに「麻疹ウィルス」や「インフルエンザウィルス」がある。インフルエンザウィルスはカモの常在ウィルスであるが、ニワトリを介してヒトに感染するようになった。
 子供が水疱瘡に罹ると、皮膚に発疹・水疱を生じるが、重症化することは少なく、終生免疫を獲得する。しかしながら、このウィルスは神経節に潜伏しており、免疫が低下すると発症し、神経節に沿って発疹を生じる。慢性の経過を辿るものに、ヒト免疫不全ウィルス(Human Immuno-deficiency Virus; HIV)によって引き起こされる後天性免疫不全症候群(Acquired Immune Deficiency Syndrome; AIDS、エイズ)がある。HIVは免疫反応の司令塔であるCD4陽性T細胞やマクロファージに感染し、次第に免疫低下をもたらす。
 このように、ウィルスによって、標的細胞が異なり、種々な症状を呈する。新型コロナウィルス(SARS-Cov2)は風邪の原因ウィルスとして知られているコロナウィルスが変異を来したものである。

(2)感染者の隔離
 旧約聖書、新約聖書の時代では、祭司・司祭が病気の診断・治療を担っていた。病人は身を清め、感染症患者は隔離すること、手洗いなどが勧められていた。ウィルスの存在が知られていなかった古代より、私達と変わらない手洗いを実行していたことは驚きである。現在でもユダヤ人は手洗いの習慣を守っており、その習慣によりペストが蔓延した際には、感染を免れたと言われている。今日でも、感染者の隔離、手洗いなどは感染拡大防止のために役立つ基本的な考え方である。

(3)ワクチン開発、治療薬の発見、公衆衛生の向上
 ジェンナーは乳搾りをしている女性は軽い牛痘に罹るが、天然痘には罹患しないという事実に着目し、牛痘をヒトに接種すると天然痘を予防できるということを見いだした(1779年)。フレミングは黄色ブドウ球菌を培養中に偶然にペニシリンを発見した(1928年)。これまで人命を奪われ、社会変革をもたらしてきた感染症に人々は恐怖に怯えていたが、ペニシリンの発見は近代医学に革命をもたらした。さらに、都市化と共に住環境が悪化してきたが、上下水道の整備、伝染病研究所による感染症対策がとられたことにより、我が国ではある種の感染症はコントロール出来るようになってきた。

(4)微生物の発見
 19世紀に入った頃、コッホは結核菌、コレラ菌、炭疽菌を発見し、細菌学の基礎を打ち立てた。その後、イワノフスキーのよって細菌よりも小さなウィルスが発見された。天然痘ワクチン接種が実施されると感染患者数は激減し、WHOは天然痘撲滅宣言を発した(1980年)。ペニシリンの発見以降、次々と抗生物質が発見され、急性感染症はコントロールされたものとなり、米国議会では「感染症の教科書を閉じる時が到来した」と宣言された。

(5)新興・再興感染症
 しかしながら、抗生物質の濫用によって耐性菌が問題となってきた。抗生物質に暴露すると、細菌の変異は加速し、薬剤耐性となった細菌は増殖のアドバンテージを獲得する。一方、ヒトの世代交代は細菌に比べてはるかに長いので、競争では細菌が有利となる。さらに、エイズ、サーズ、マーズ、新型コロナウィルス感染症(Covid-19)のような新規ウィルス感染症(新興・再興感染症)の勃発を経験している。新たな抗生物質・抗ウィルス剤を開発することによって、人類は微生物に対処するという、いわば「軍拡競争」の様相を呈している。
 世界規模の流通や人の流れにより感染症はあっという間にパンデミックになるということをCovid-19で実感した。新規感染症に対するリスク因子として、ウィルスの変異、自然破壊、気候変動、ワールドワイドな交流などが上げられているが、大部分は人の活動の結果として表れたものである。感染制御と経済活動をどのように両立させるか?私権制限、自由な活動を制限するシステムは近代民主主義の変容を迫っている。
 
(6)新型コロナウィルス感染症対策
 新型コロナウィルス(SARS-COV-2)の形態や遺伝子変異が明らかにされた現在でも、感染対策の基本は隔離、手洗い、マスク着用などの感染予防策(スタンダードプリコーション)である。新型コロナウィルス感染症の克服のための重要な手段である迅速診断キット、治療薬およびワクチン(3種の神器)の開発に向けて世界中で基礎・臨床研究が進行中である。一日も早い臨床応用を期待したい。

(7)戦争の行方に影響を与えた感染症
 領土や資源をめぐって、有史以来戦争が繰り返されてきたが、感染症はその帰趨に多大な影響を与えてきた。感染症に見舞われたアテナは滅んだが、世界の成り立ち、人生如何にいくべきかというギリシャ哲学が生まれた。中世における疾病は暗黒の時代に終わりをつげ、新たなイタリアルネッサンス、そして新世界の発見へとつながっていったのである。人類は打撃、悲しみを跳ね返し、新たな世界に向けて創造性を発揮するという力強さを発揮し、今日に至っているのである。

(8)ポストコロナの世界
 感染症の歴史を辿ったように、パンデミックの後の世界は様相を一変することが多い。それまで期が熟していたものが、感染症によって一気に後押しをされたとも考えられる。医療・介護分野では、人工知能(AI)の活用、ロボット、情報通信技術(ICT)など電子化に向けた流れが加速されるだろう。
アクセス


〒244-0003
神奈川県横浜市戸塚区戸塚町
1800-3

お問い合わせ 詳しくはこちら