水口施設長コラム No.14新型コロナウィルス感染症(3)


新型コロナウィルス感染症 (3)

 中国湖北省を震源とした新型コロナウィルス感染症は瞬く間に全世界に拡大し、WHOは3月に「パンデミック」と宣言した。ダイアモンド・プリンセス号における感染症対応、外国人に対する入国制限、不十分なPCR検査体制など、我が国の感染対策の不備が国内外から指摘されてきた。しかしながら、感染者数および死者数は欧米に比べて極めて低く(数十〜百分の1程度)、「日本の謎」と欧米人は首をかしげている。この謎について、色々な見解が出されている。

(1)文化的な習慣:マスクの着用や手洗いの習慣
 中国人旅行者が多く、重篤化しやすい高齢者が多いにもかかわらず、欧米に比べて我が国の感染者・死者数が少ない。その理由として、握手、ハグやキスをする習慣がないこと、花粉症の流行時や風邪の際にはマスクを着用していること、さらに罰則のない要請にも関わらず、市民が協力し、三密の回避、テレワークや学級閉鎖、ソーシャルディスタンスの確保などが徹底されているという我が国特有の文化などが上げられている。しかしながら、韓国、タイ、インドなどのアジアの国々の感染者数も低いことから、これらの文化だけで感染数の低さを説明することはできないだろう。
(2)BCG接種によるコロナ感染に対する抵抗性の獲得
 アジア圏では、欧米に比べて結核患者が多いことから、BCG接種を受けている(我が国では、結核予防法により1歳までに接種する)。BCGは牛型結核菌の毒性を弱めたワクチンであり、接種により細胞性免疫を誘導し、結核の発症を予防できる。一見すると、BCG接種を受けた国々とコロナ感染症の低さとの間には相関があり、接種を受けた人は結核ばかりではなく、呼吸器感染症に罹患しにくいという報告もある。一方、欧米におけるBCG接種者と非接種者の感染率には差が認められないこという報告もあるが、日本・ロシア型BCGが効果的であるという知見もあり、今後のさらなる検討が待たれる。
(3)ACE2発現レベル
 ウィルスは特定の細胞膜上の受容体を介して感染感受性を決めている。例えば、牡蠣などの摂取により急性下痢がもたらされるノロウィルスは腸管における血液型物質を認識する。非分泌型の人は受容体がないことから、感染しない。同様のことがコロナウィルスでも起こっている可能性が指摘されている。また、学童では、大人に比べて感染しにくく、感染しても重要化しにくいと言われており、呼吸器系におけるACE2受容体の発現レベルを検討することは興味深いだろう。
 (4)HLAの違い
 免疫系がウィルスや細菌などの微生物の感染防御に関わっている。免疫反応を支配しているものに主要適合性抗原(Major histocompatibility complex, MHC)がある。ヒトでは白血球抗原(Human leucocyte antigen, HLA)と呼ばれている。MHCの役割は免疫反応において中心的な役割を果たしているT細胞に抗原を提供することである。クラスI  MHC分子は細胞傷害性T細胞へ抗原を提示し、クラスI I  MHC分子はヘルパーT細胞へ提示する。実際、HLAタイプと自己免疫疾患、アレルギー感受性との関連性が示されており、HLAタイプとウィルス抵抗性の関連性に関する解析が待たれる。
(5)交差免疫
 コロナウィルスは修復酵素をもっていない為変異しやすく、SARS、MERS、そして今回の新型コロナウィルスのように強毒タイプとなることもある。東南アジアの人々はコロナウィルスによる普通の風邪にかかっており、この時に誘導された記憶T細胞が今回の新型コロナウィルスに対して交差反応するという可能性が上げられている。魅力的な仮説であり、今後の検証が待たれる。

 山中教授のファクターXなるものの正体は明らかではない。複数の要因が絡んでいる可能性もあり、今後の解析結果が待たれる。今回のコロナウィルス感染症は、人命のみならず、経済や人々の生活にも大きな影響を与えた。本施設でも、通所施設の一時的な制限、リハビリの制限、面会制限など、日常活動等に対して制限を課している。一方、外出自粛によって高齢者のQOLの低下がもたらされたと言う声も聞こえてくる。新型コロナウィルスとのつきあいは長期戦が予想され、感染対策を図りながらQOLを維持・増進させる方策を模索しなければならないだろう。

参考文献:
Iwasaki A. & Grubaugh N.D. (2020) Why does Japan have so few cases of COVID-19? EMBO Mol Med 12:e12481


 

アクセス


〒244-0003
神奈川県横浜市戸塚区戸塚町
1800-3

お問い合わせ 詳しくはこちら